「仕事休んでうつ地獄に行ってきた」を読んで。鬱の実体験から学ぶこと

前書き

元日本テレビニュースキャスターである丸岡いずみ氏が執筆した「仕事休んでうつ地獄に言ってきた」、を読んだ。

本書を手にとった理由は、テレビ業界のニュースキャスターが、”うつ病”という医学分野の事柄について書いた本であり、とても珍しいと感じたためだ。

この本を読み終えて感じたが、医学の専門家ではない人だからこそ表現できたことがたくさん詰まっていたと感じた。専門家が書いた本とは違った魅力があったと思っている。

本書を読み終えて、自分の知識となったことや印象に残ったこと、そして心に残ったことを書き留めたいと思う。

うつ病にかかる以前のことが書かれている

医学の専門家でないニュースキャスターが、”うつ病”について書いていることに興味を持ったと書いた。そして本書の中で、専門家では書けないことが実際に書かれていた。本書の前半半分がそれだと言ってもいい。

丸岡いずみ氏は、北海道文化放送を経て日本テレビに入社した。
この日本テレビでの激務が、本書の前半部分で綴られている。

警視庁捜査一課の担当になり、殺人事件の現場取材で恐ろしい光景を目にしたことや、警察の巡査部長から情報を聞き出すため張り込みをしたこと。
ニュージーランドの地震取材や東日本大震災の取材でも恐ろしい光景を目にしたこと。
そして東日本大震災から間もなく、英国のロイヤルウェディングの取材に行き、震災の凄惨な光景とのギャップに戸惑いながらもレポートを行ったこと。
そしてその他、看板キャスターを努めたり報道業界の激務に忙殺されていたこと。

本書の前半部分では、ほとんど”うつ”ということには触れられていない。

しかしこれらの、凄まじく忙しかった彼女の仕事における姿を知ることで、丸岡氏がどのような人物か知ることができたし、その性格が後の”うつとの闘い”に影響したことも知ることができた。

例えば、“前向きな性格だったからうつを誤解していた”や、”仕事を頑張りすぎてしまったために、知らず知らずのうちに身体が悲鳴を上げていた”、といった風に。

また、丸岡氏のニュースキャスター時代の経験を知ることができるのは、本書の最大の魅力のひとつだと断言できる。医学の専門家が書いた本では絶対に味わえない。

また、事前に彼女自身の実体験を読むことで、後に語られる彼女の”うつ”との闘病生活を、とてもリアルに感じ取ることができた



うつ病への誤解

丸岡氏は、本書の中でも言っているが、快活で明るい性格であり、「自分には”うつ”なんて関係ない」と思っていたそうだ。嫌なことがあっても家に帰ったら忘れるし、難しいことが立ちはだかっても「なんとかなるさ」と前向きに考えられる性格だったと話している。

しかしそんな明るい性格の彼女でさえも、”うつ病”にかかってしまったのだ。

本書が一番伝えたいことのひとつが、うつは誰もがかかる病気であるということだ。うつ病との闘病生活の中で、彼女は薬を医師が指示したように飲まなかったと明かしている。

薬を飲むことや、うつ病にかかったことを認めることが、彼女自身できなかったそうだ。

ここでひとつ大事なことを書いておきたい。丸岡いずみ氏の言葉ではなく僕の言葉だ。

自分の弱さを認めることは必要だ、と僕は思う。そしてこの弱さを認めることは強みでもあると僕は思う。

丸岡氏は、市販の頭痛薬さえ飲んだことがなかったらしく、そんな彼女にとって精神科が処方する睡眠薬などはかなり抵抗があるものだったようだ。そして薬を飲めなかった背景として、うつ病は心の病気だと考えていたことも明かしている。

丸岡氏は最終的に薬を飲むことを決意し、「薬を飲んで劇的に良くなった」と書いている。そしてうつ病への理解のひとつとして、うつ病は心の病気ではなく脳の病気であると書いている。

念のため書いておくが、うつ病が脳の病気であることは現代の医学ですでに証明されている。つまり丸岡氏の書いていることは正しいことだ。

うつ病は心の風邪?

うつ病は心の風邪、という言葉は最近使われない。しかし、本書が発売された2013年頃はまだ使われていたような記憶がある。

本書の中で、丸岡氏が精神科医にうつ病について取材したやり取りが記載されている。その中で「うつ病は心の風邪なのか?」というテーマで書かれているのだが、結論として以下のことが書かれていた。

うつ病を心の風邪と表現してしまうと、自力で治せると勘違いされてしまうそのため、うつ病を心の風邪と表現することは、最近では使用されなくなった。

本記事は2019年5月に執筆しているが、過去を振り返って「心の風邪」なんていう表現が使われていたことを思い出し、しみじみと感じてしまう。

というのも、ほんの5年前までは、うつ病は軽く考えられていた、ということを感じずにはいられないからだ。

自分らしく生きる

丸岡氏は、本書でテレビキャスターをしていた時代を振り返り、「丸岡いずみ像」を壊さないように生きていた、と書いている。つまり、テレビキャスターとしての自分というか、パパラッチされることもあったようで、そんな羨望の的のような存在を、どこかで守ろうとしていたと書いている。

しかしうつ病との闘病生活が終わった今、「自分の幸せを考えて生きてもいいんだ」、と思えるようになったと書いている。

僕の言葉で言わせてもらえば、自分らしく生きる、ということではないだろうか。

「〇〇しなければならない」、や、「△△するべき」というような考え方をやめて、例えば、「今日は◇◇に集中できない。今日は違うことをしよう」という風に考えられることが自分らしく生きることであると思うし、”うつ”になりづらい、しなやかな生き方ではないかと僕は思う。

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感想(1件)

後書き

本書を読んで本当に良かったと思っている。女性筆者ならではの、真っ直ぐな表現がとても新鮮であった。

旦那さんとの出会い、そして結婚に至るまでのことも書かれていた。そしてうつ病のときに励まされた人たちとの関係や、その人々の言葉も書かれていた。
それらの言葉は、ありきたりな表現ではあるが、とても人間味に溢れた温かい内容であった。

うつ病前の仕事の風景と、うつ病との闘病生活、そしてそれが終わった後の情景が、あたかも丸岡いずみ氏の目線で体験できたような、そんな一冊であった。

最後までお読みいただき、ありががとうございます。
一人でも多くの方が本書を手にとって読んでいただけたら嬉しいです。

そしてこの記事が、うつ病への理解を深めることにつながり、そしてうつ病に苦しむ人々の助けになれば、それ以上の幸せはありません。