「12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと」byモカ 読書後の感想

前書き

「12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと」という本を読んだ。僕はこの本を、サンクチュアリのホームページの「〜樺沢紫苑が厳選する珠玉の12冊〜」という特別企画で知った。
https://www.sanctuarybooks.jp/book-details/book1094.html

自殺者を減らすことやメンタル疾患を減らすことをビジョンとしている樺沢紫苑氏が、かわいい女の子が表紙を飾っている本を紹介していたので不思議な感じがしていた。特にそれほどシリアスな内容ではないだろうとも想像していた。

だけどそんな想像は、本を読み始めてすぐに消えてしまった。

この本は間違いなく、僕の中でベスト10に入る印象深い本となった。

この本はハウツー本でもないし、自己啓発の本でもない。

思いっきり人生を駆け抜け、厳しい痛みを乗り越え、ものすごい鬱の苦しみを味わい、一度死んだけど立ち上がり、生きる意味を見つけ、今も精いっぱい生き続けている、ひとりの人間の物語だ。

物語の主人公はモカさん。もと男性で、性転換手術で女性になったトランスジェンダーだ。本名は亀井有希という。

この方の経歴はものすごい。10代半ばでほとんど学校にも行かず、銀座と新宿でホステスをした後、ウェブデザイン会社を経て21歳の時に女装イベントを自ら作る。その女装イベントが日本最大級となり、年収1千万円を超す会社の経営者となる。

その後、長年の夢であった漫画家として活動するが、躁うつ病が悪化して自殺未遂をしてしまう。

九死に一生を得た後は、自分と同じ悩みを抱える人々を助けるため、無料のお悩み相談を始める。

モカさんの詳しいことは彼女自身のブログサイト(https://mocamoca.uni-web.jp/my)を見ていただければと思う。

本書は記者の高野慎吾氏が彼女を取材し、彼女の波乱万丈な人生を綴った共著となっている。それでは本書「12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと」の読書後の感想を書きたいと思う。

 

闘うものが無くなった

モカさんは自殺前の気持ちを以下のように言う。

私は闘うものが全部なくなった。漫画を描くこともクリアしたし、自身の会社経営もクリアしたし、全部クリアした。あの時、戦争とか新たな災害が起きていたら、生きていた。何か闘う相手、夢中になれるものがあったら、そっちに夢中になっていた。

この言葉からストレートに伝わってくることは、モカさんは自身の人生で闘い続けてきた人だということだ。

闘うものがあるからこそ、生き続けることができていた、とも読み取れる。

僕の言葉で言わせてもらえば、それは「生きがい」なのではないかと思う。人は何か目指すものや目標があってこそ、生きている実感を感じ取れるものだ。モカさんの場合はその気持ちが特に強かったのだと思う。

モカさんは幼いころから自分の性別に違和感を感じていた。学校や会社などのルールに縛られた生活が苦手だった。そんな幼いころの経験から、モカさんは世の中の常識に対して疑問を感じていたのではないかと思う。敷かれたレールの上や、作られたルールの中で生きることに、疑問を感じていたのではないかと思う。

本書の中でこんな言葉が書かれていた。

「常識にとらわれなくてもいいんだ。」

この言葉は、モカさんが女装イベントを開催して思った言葉だそうだ。

モカさん主催の女装イベントが成功して、世間では認められずらいと認識されているものにたくさんの人たちが集まり、モカさんは「常識にとらわれなくてもいい」と感じ取ることができた。

モカさんは幼いころから闘い続けていた。闘い続けていろんなものを成し遂げて、すべてやり切ってしまった気持ちになってしまった。

タイミング悪く、その時患っていた躁うつ病が悪化し、自殺に走ってしまった。

詳しくはモカさんのブログや、就労移行支援事業所「UNUN(ウンウン)」(https://uni-web.jp/)を見ていただきたいが、モカさんは自殺未遂の後、人の悩みを聞いて助けるという活動を始めた。

正しい表現かどうかはわからないが、これは彼女にとっての新しい闘いなのだと思う。



クローズドなイベントでは意味がない

モカさんは自身が開催した女装イベントを背景にこう語る。

「女装さんたちが自分たち限定のクローズドなイベントを開いてやり返しても、意味がない。まず、自分たちが、色々な人を受け入れる。そうすれば、徐々に社会に受け入れてもらえるようになるかもしれないでしょう」

前述したが、モカさんは無料相談や就労移行支援事業所を立ち上げている。

このモカさんの行動を背景にこの言葉を読むと、モカさんはとてもオープンなマインドを持った人なのだと感じる。

自分の住み心地のいい世界を作ろうとするのではなく、この世界自体を変えようとしている。より正確な言い方をすれば、この世界に生きている人々の考え方をより良い方向に持っていこうとしている。

このより良い方向というのがオープンなマインドだ。

この世の中には様々な価値観を持った人たちが生きている。そのどの価値観も、価値があるものだ。だけど我々人間は、他人の価値観を受け入れづらく感じるときが少なくない。でも他人の価値観を受け入れる行動こそが、平和や愛といったものなのだと思う。

少なくとも、他人の価値観を受け入れようと努力することはできる。

その努力をモカさんは自発的に始め、行動にまで移した。そして他人の価値観を受け入れる意思や行動を起こすことが、最終的には自分たちを受け入れてくれる機会にもなる。

そのことをモカさんは自身の行動の中で気づき、女装イベントをさらに大きなものにしていったことがすごい。

オープンなマインドでいることは、人生のあらゆる場面で必要なものだと思う。漠然とした言い方になってしまうが、オープンなマインドを持つ人が増えれば、世の中はもっと面白くなっていくのではないかと思う。

僕自身もあらためて、オープンマインドの大切さに気づかされた。

 

与えることが自信につながる

最後のトピックは、自信について書いてあったことを書きたい。僕にとって一番心に残ったところだ。

モカさんはこう語る。

人に何かしてあげると、「ありがとう」と感謝される。時に褒められる。それが自信につながる。なるだけ出し惜しみをせず、できることは無償でやってあげる。

「自信をつける方法」や「自信をつけるためには」というようなタイトルで、様々なインフルエンサーたちがYouTubeやブログで情報発信をしている。

念のため言っておくが、そのどれもを否定するつもりはない。そしてモカさんの言葉の方が影響力が高かった、などと言うつもりもない。

実際に僕は色んなインフルエンサーたちに助けられてきたし、彼らに影響を受けたからこそこのようなブログを書いている。

ただモカさんの言葉でとても印象に残ったのは、人に与えることが自信につながると書かれていたことだ。

モカさんは心の優しい人だ。すべての人が平等に扱われ、生きがいを持って生きていてほしいと願っているのだと思う。

そんなモカさんだからこそ、人に与えることが自信につながると言えたのだと思う。そして、モカさん自身がそのような経験をされたのだと思う。

無料の悩み相談を始めて、たくさんの人から頼られるようになった。それが自分の生きがいとなった。そして一人ではないと強く感じられるようになった。そして自信がついた。

決してモカさんは自信がなかった人ではない。20代にして年商1000万円を稼ぐ会社を作ったすごい人だ。

僕が言いたいのは、自信をつけることと、生きがいを持つことと、心の平穏を得ることは、つながっているということだ。この本を読んで強く思った。

月並みな言葉であるが、僕はこれから一層、他者に貢献する行動を取っていこうと思っている。このように強く思わせてくれたのは、この本でモカさんの力強い人生を見たからだと思う。これほど多くの痛みを感じる人生を送ってきながらも、他者のために生きることができるモカさんから、間違いなく影響を受けた。

「自信をつけるため」と理由付けをせず、他者貢献をしていきたい。

 

後書き

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

きっとこのような記事を読んでいる方は、少なからず「うつ」や「心理学」などに関心がある方なのではないかと思っています。

この「12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと」という本は、ある意味心理学者や精神科医が書いた本よりも説得力がある本です。

それはモカさんという実際に生きている人間の人生が書かれたエッセイでもあり、その波乱万丈な人生から生きることへの姿勢が真摯に書かれているからです。

そしてその厳しい人生を背景に、「生き方」のヒントがリアリティを伴って書かれているからです。

興味を持っていただけたら、ぜひ読んでいただきたいです。