砂漠(伊坂幸太郎)を読んで

前書き

伊坂幸太郎氏の「砂漠」を読みました。伊坂氏の本を読むのは初めてだったのだけど、とても新鮮な感覚を受けました。

とにかく青春ですね、この本は。僕は大学に行かなかったので、実際に大学生活を経験することができなかったけど、この本で描かれてる学生たちの生活は素直に気持ちがいいと思えました。

大学生活っちゅうものを体験してみたかったねー。まあ過去に戻れたとしても大学には行けないと思うけど。若いころは色んな雑念があったし。。

話が逸れましたが、伊坂氏の「砂漠」から、印象に残ったシーンをピックアップしつつ、感想を伝えていきたいと思います。

 

西嶋がいいね

本書の解説で、吉田伸子氏が「西嶋、サイコーーーーっ!」と書いていましたが、僕も同じ感想を持ちました。西嶋サイコウ!っ、だね。

本書で描かれる西嶋というキャラクター。彼の魅力を一言で言えば、「ためらいが無い」ということだと思います。

西嶋はとにかく「言いたいことは言う」キャラクター。西嶋の発言が本書の一番の見どころと言ってもいいのではないかな。とにかく面白い。

「~なんですよ」や「~はですね」といった特徴的な語尾が付くしゃべり方があり、飲み会の席なのにいきなり戦争や平和の話をし始めたりする。

何より面白いのは、しゃべり始めたら止まらないことだ。そしてしゃべりまくるだけではなく、すぐに行動する。

いじられキャラでリーダーシップがあるわけではないのだけれど、誰もが西嶋を頼りにしていて、西嶋がいると場がパッと明るくなる。実際にもそういう人いるよね。

西嶋というキャラクターを通して、「言いたいことは隠さない」「すぐに行動する」「自分らしくある」ということの大切さを感じました。

 



穏やかいることの強さ

本書の中で、たびたび麻雀を組むシーンが登場する。大学生の仲良し5人組が雀卓を囲むわけだが、その中で出てくる印象的な言葉があった。

南、という女性キャラクターがいるのだが、麻雀が終わった後にこう言う。

「みんながプラスマイナスゼロっていうのが一番楽しいでしょ」

この言葉を受けて、主人公の北村の心情が下のように綴られていた。

もしかすると強靭さとは、自信や力や技などよりも、そういった穏やかさに宿るのかもしれない、と考えてしまった。

ブラック企業に勤めていたころ、「結果を出してこい」「言われたことをやれ」「バカかお前は」と威圧的な言葉を言われたことが多々あった。

しかし一度として、そのような人間たちに心を動かされたことは無かった。

この南の言葉はそれと関連することろがあって、強靭さは穏やかさに宿るものなのではないかと、僕は真剣に考えてしまったのだ。

24時間365日常にそうあれ、とは言わないけれど、本当の強さとは優しさであり、その優しさは相手に伝わらなければ意味がない。

古い価値観の人たちが勘違いして「優しさから厳しくしているんだ」と訳の分からないことを言ってるけれど、それはウソってことだね。

人に優しくできないから「優しさ」を「厳しさ」と言い換えて(ウソをついて)いるわけだ。

まあかなり話が脱線したけれど、人に「優しく」することは難しいことだから(僕もそれを実感しているから)、「優しさが強さ」ってその通りだなと思ったんだ。



砂漠の意味

スパッと結論言うけど、本書のタイトルである「砂漠」の意味は、学生生活が終わった後に出ていく「社会」のことだ。

つまり本書で描かれている学生生活は「オアシス」っちゅうことだね。

どのように「砂漠」という言葉がこの小説の中で扱われているかは、実際に本を手に取って確かめてほしい。

ただ、社会を砂漠と考えている人がいて(少なくとも著者の伊坂氏)、それは僕にとって勇気づけられることだった。社会では「迷いながら進んでいく」ことが当たり前だと再認識できたから。

砂漠(社会)に出る前のオアシス(学生生活)を描いた小説、という前提で読むと、また違った見え方がするんじゃないかな。